特定非営利活動法人 乙訓障害者事業協会 乙訓もも
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- 京都府 若者等就職・定着総合応援事業 (基礎的就職支援事業)
地域とつながることで偏見をなくしたい。長岡京市の「乙訓もも」が注力する、これからのセーフティネットとは?
JR長岡京駅から10分ほど歩いた住宅街に駄菓子屋があります。今回訪ねたのは駄菓子屋の2階に事務所を構える「乙訓もも」です。
「乙訓もも」は京都府の乙訓(おとくに)地域で、ひきこもりに関する無料相談、居場所提供、就労に向けた支援、駄菓子屋経営などを行っているNPO法人乙訓障害者事業協会の事業所です。
写真左が脇田俊一郎さん。右が藤田晃久さん。
乙訓ももに勤める藤田晃久さんに事業所についてお伺いしました。
制度の中で、どれだけ幅広くユニークな支援ができるか。
「生活困窮者自立支援法の中の就労準備支援事業っていうのを、長岡京市と大山崎町にお住まいの生活困窮の方に向けて行っていて、現在は長岡京市の方が6名いらっしゃいます。年齢的には20代前半から40代後半までの方で、地域の企業からいただいたお仕事に取り組んでもらったり、駄菓子屋で値付けをしてもらったりしています。」
利用者さんといっしょにつくったトートバックを見せてくれました。
「利用者さんが描いたものですが、独特な書体なのが面白くて制作しました。」
このように就労プログラムだけではやりがいや楽しみが見つけられない場合、本人の特性を活かして個別のプログラムをつくるといいます。
「2パターンありまして、しっかりとプログラムとして取り組むほうが良い人と、それだけだとしんどいという人がいます。例えば楽器の演奏を得意とする人がいたとします。人にもよりますが、就労支援を前面に押し出すとなかなか利用までにつながらなかったりすることもあるので、まずはしっかりとつながってもらうために、クリスマスにインスタライブをやってもらったり、出張して演奏を披露するなど、そういう本人のやりたいことを聞きながら個別のプログラムをつくっています。」
地域とつながることで偏見をなくす。
「『一通り内職だけしましょう』だと面白みに欠けるところもあり地域とつながらないので、外へつながって本人の持ち味を活かしたプログラムをつくっていきたい」と藤田さんはいいます。藤田さんの言葉には「地域とつながる」というキーワードが何度も登場しました。なぜそれほどまでに地域にこだわるのでしょうか。
「生活困窮者とかひきこもり状態にある方って世間で否定的な見方をされやすい側面があります。『こんなグッズをつくってますよ』とか『子どもたちが喜ぶ演奏をしてますよ』と地域の方に伝えることで、偏見とか、間違った理解とか、認識を軌道修正してもらうきっかけになるんじゃないかと思っています。」
福祉団体のNPOが駄菓子屋を運営する理由。
駄菓子屋スペースも地域交流の場の延長としての側面があるそうです。
「ひきこもりの相談もここで受けたりします。行政とか支援機関に行っても『敷居が高い』とおっしゃる方が利用者さんの中には多くて。相談に行ったら怒られるんじゃないか、とか周りの目を気にして『役所に相談に行くところを人に見られたくない』という方もいます。だから相談の場を駄菓子屋にすることで誘いやすくしています。『相談に来ませんか?』よりも『駄菓子屋に来ませんか?』というほうが声をかけやすいですから。もちろん相談は個別のスペースで行ないますし、さらに機密性の高い相談室も用意していますので、どちらかを相談されたい方に選んでいただいています。」
また就労体験の一環として、駄菓子屋の値付けや仕入れなど、裏方仕事を手伝ってもらうこともあるそうです。
「乙訓もも」の6つの事業。
店舗を構えていることで直接相談に来る方が多いのかというとそうではなく、大半が電話やメールだといいます。乙訓ももは大きくわけて6つの事業を行っており、それぞれが入口となって、ひきこもりの方がやってくるといいます。
1) 絆事業(チーム絆として乙訓地域を担当)
京都府からの委託事業で、ひきこもり状態にある方やそのご家族と出会い、寄り添う事業。
2) 社会参加事業
地域に一歩踏み出す居場所づくり。ゲーム大会や地域の方とワークショップの開催。京都府の補助事業。
3) 基礎的就職支援事業
15歳から35歳までの方で働く上で必要な基礎的な知識などについて講習等を実施する事業。京都府の補助事業。
「セブン商店会にあるアレルギー対応のお菓子やこだわりの食品を取り扱われているお店「3-5min(3から5ふん)」さんとの協働で店舗実習のプログラムを行っています。売上管理表などは利用者さんたちがつくったりしています。」
(Fさんは元ひきこもり当事者。3年間の支援の末、現在は駄菓子屋のスタッフとしてお店に立っている。)
4) 就労準備支援事業
生活困窮状態にあるなど生きづらさを抱えた方のための就労に向けた自立支援。地域の企業・個人事業主と連携した就労プログラム。対象は長岡京市・大山崎町にお住まいの方。長岡京市・大山崎町からの委託事業。
「通り一遍の企業見学だけでなく、関東から移住をされコーヒー豆の焙煎をされている事業所など個人の店舗にも協力していただき、お邪魔するようにしています。さまざまな仕事があって、どれを選択しても自由で、就職するだけでなく、起業する道もあって、そういう生き方も含めて伝えられたらと考えています。」
5) 家計改善支援事業
家計の見える化をお手伝いするもの。長岡京市からの委託事業。
6) ひきこもり支援推進事業
長岡京市からの委託事業。
「この6つの事業をぶつ切りに行っても意味がないので、連動して取り組んでいます。チーム絆で出会った当事者やその家族と面談を繰り返しながら関係をつくっていき、やっぱり地域に出ないといけないと思った方は社会参加事業に参加してもらうような流れです。」
「ひきこもり支援」のセーフティネットをつくりたい。
基本的には「障害の有無に関係なく、働くことを通じて居場所をつくる」のがキーワードだと藤田さんは続けます。
「最終的にはひきこもり支援のネットワークをつくりたいです。現場の方はご存知だと思いますが、ひきこもりの方って、やっぱり不登校や就活の失敗とか、会社で鬱になられたとか、ご家族や職場や先生の理解が少し不足していたとか、その時々の社会情勢もあったりして原因はいろいろです。本人主体で支援を考えると、個別性の高い、その方に合ったオーダーメイド型の支援をしていかないといけないですね。 となると、ひとつの支援機関だけでは到底無理なので、やっぱり地域の方のお力を借りることになります。セーフティネットは実は隣のおっちゃんかもしれないし、中小企業の社長さんに『ちょっとうち手伝いにおいで』と呼んでもらって、そこに行けるようになるとかそういうことも考えられますよね。地域を巻き込むことで地域全体がセーフティネットになっていくと思います。」
乙訓地域という規模であれば、顔の見える関係を築くことでセーフティネットが実現できるのではないかと話されていたのが印象的でした。
乙訓ももの活動に関心をもった方はぜひLコネクトまでご連絡ください。どんな内容でもお気軽にどうぞ。駄菓子屋まで買い物に行ってみるのもいいかもしれません。
取材・文/狩野哲也
取材日/2022.06.30
団体について
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所在地
●活動拠点(就労訓練・ひきこもり居場所支援・駄菓子屋)
〒617-0826 京都府長岡京市開田2丁目14-9
阪急京都線「長岡天神駅」から徒歩約15分/JR京都線「長岡京駅」から徒歩約5分
●チーム絆相談室
〒617-0826 京都府長岡京市開田1丁目5-5 3F
阪急京都線「長岡天神駅」から徒歩約5分/JR京都線「長岡京駅」から徒歩約15分 -
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備考
●乙訓もものひきこもり相談ダイヤル 075-952-2890
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