特定非営利活動法人 障害・高齢者就労支援センター LINK'S
https://www.links-kyoto.org/
定休日:土・日・祝日
受付時間:9時~17時半
- 京都府 若者等就職・定着総合応援事業 (基礎的就職支援事業)
- 京都府 若者等就職・定着総合応援事業(実践的就職支援事業)
ひきこもり当事者だけでなく親御さんも支援したい。亀岡市の「リンクス」が農作業を通して育む未来とは?
亀岡市のJR並河駅の目の前の建物の2階に「特定非営利活動法人 障害・高齢者就労支援センター LINK'S(以下、リンクス)」があります。
リンクスは6つの事業を展開しています。
ひとつは就労継続支援A型事業。ブルーベリーの栽培管理や観光農園の運営をしたり、季節に応じた京野菜づくり、休耕田を利用した養殖池での淡水魚ホンモロコなどの養殖、昆虫食事業、アパレルの輸出入などさまざまな活動をしています。
2つ目は指定特定相談支援事業。3つ目は職業訓練受託事業と京都府若者等就職・定着総合応援事業。4つ目はSDGs苗床プロジェクト事業。5つ目がオーダーメイド型在職障害者訓練。6つ目がオンラインマルシェです。
以上のような、人と農業をつなぐさまざまな事業を展開するリンクスの理事長、熊本眞知子さんに現在の活動にいたる背景をお尋ねしました。
滋賀から亀岡市に来た理由。
「なぜブルーベリー畑だったのでしょうか?」という素朴な疑問から、熊本さんが亀岡市に来た背景が浮かび上がりました。
「元々私は京都市で生まれて、結婚を期に滋賀県に移り住んで育児をしてたんですけど、地域の女性の方たちと一緒にボランティアでブルーベリー畑を管理していたんです。その後、夫が入退院を続けていた頃に以前勤めていた銀行でパートとして働いていたのですが、支店長から「起業が向いている」と言葉をいただいて。それでファイナンシャルプランナーの資格をとって会社を立ち上げ、京都と滋賀で6店舗のお店を経営していたんですが、主人が病気で手と足が動かなくなり、身体障害者手帳をもらったのを機に福祉に携わる人たちと接することが増えたんです。」
熊本さんは年商3億円以上に成長した飲食事業を閉鎖し、「困難を抱える人たちの就労支援」に携わろうと、京都府立京都障害者高等技術専門校の就職支援推進担当を7年間務め、訓練生に就労訓練と就職のためのノウハウを教えたといいます。
「就労の授業だけでなく、企業さんを回って、修了生を雇ってもらえないかと交渉していました。その時になかなか就労先がないという現実にぶつかるわけです。私が7年間仕事していた中で、亀岡市で雇ってくださった企業は1社しかなかったんですよ。私は専門校の支援員時代から、自分で障害者を受け入れる就労継続支援A型の事業所をつくってブルーベリーの栽培をするという構想を考えていて、それを当時、府議会議員をされていた桂川孝裕議員(現亀岡市長)にお伝えしたところ、「亀岡市は果物をつくるのに向いている土地ですからぜひ亀岡に!」ということで、さまざまな場所に問い合わせいただき、この場所を見つけていただいたんです。」
一時期は専門校に勤めながら無給で2年ほどNPOの理事長をしていたそうです。桂川議員には府議会議員時代に副理事もしていただき、亀岡市の福祉団体ともつないでもらったのだとか。
農業は未経験からスタート。
亀岡市でA型事業所の認定をとるまでの期間は、ブルーベリーの木を仕入れて、育てるところからはじめたそうです。
「滋賀県では育っている木を管理していただけで、専門家でもないので未経験からのスタートでした。いろんな知り合いの方が田畑を貸してくださって、 ブルーベリーから京野菜の栽培に移るまでは、もう1年とかからなかったです。」
また、障害のある人の中に魚が好きな人もいたため、野菜の栽培だけでなく、魚の養殖もはじめたといいます。
「障害のある人にいろんな仕事を体験してもらうのが目的ですので、そこから利益がでるわけでは全然ないです。」
特色は座学よりも現場主義。
座学は駅前の事業所で行い、その後は農作業の場に移動するのがリンクスの特色だと熊本さんは言います。
「就職困難な状態にある人は、たくさんの座学を今まで受けておられる方が多いんですね。でも、そのほとんどはコミュニケーション能力の勉強です。自分の強み弱みを発見する勉強はすでにされているので、なるべくそこに重点を置くのではなくて『とにかく外へ行きましょうよ』と畑に行きます。」
最初は慣れない作業で不安に感じる人がいるものの、長靴を履いて、タオルを首にかけて畑に行き、苗を植えて、水をやって、草をひいて、とやっていると「なんだか楽しい」という気持ちになるのか、「しんどいから明日は実習に来ません」という人はいないといいます。
「細くて、色が白くて、外なんかぜんぜん出ないという方でも、毎日がんばって畑に行かれるんですね。やはりひきこもりの方は、鬱傾向がありますし、今まで自分で自分を引き上げられないもどかしさの中にずっとおられた方が多いので、環境をスパッと変えることで、自分の中に重くのしかかっていた自分が解放されるところがあるようです。」
そして熊本さんは「農業=すぐ就職ではない」と語ります。
「でも農業がなんとなく楽しいな、外で汗かくのって楽しいなとなると、職業準備性(日常の生活リズムと健康管理、仕事仲間とのコミュニケーション能力など、はたらき続けるために共通して求められる基礎的な能力)が高まってきて、体力もついてきます。毎日決まった時間に行かなければいけないので生活のリズムも整ってきて、やっぱり達成感とかがあるんですね。芽が出るとか、自分がやったことがこうして現象として変化がある、私もなにかできるのではという気持ちが全ての就職に当てはまることだと思うんですよ。働く楽しさを知るきっかけづくりには農業が最適なのでは、と私は位置づけてるんです。」
実際に訓練後に農園に就職する人は多いといいます。
利用者はどういうルートでリンクスにたどり着くのか。
ひきこもり状態の方で、なおかつ働きたい気持ちがある人は、どのようなルートをたどってリンクスにつながるのでしょうか。
「当然ご自分で活動もされていませんし、親御さんもどちらかと言えば家にひきこもる状態で、人にも言わないという方が多いんです。だからその方たちをどうして見つけるのかが私たちには至難の業なんですけど、そのためにこの地域では『学びの森』さんを中心にチーム絆という、ひきこもりや不登校の人たちを支援するためのネットワークをつくってるんです。」
ひきこもり状態の方を見つけるシステムの構築が必要だと熊本さんは続けます。
「我々のところに京都府若者等就職・定着総合応援事業(就労が難しい方の支援)で来てくださるのは、リーフレットやパンフレット、ポスターなどを見た親御さんがきっかけという流れが多いです。手帳を持っていないひきこもり状態の方はこの流れが多いですね。」
加えてハローワークなどにも行けないようなひきこもり状態の人をどう見つけたらいいのかが課題だといいます。
熊本さんは言葉を選びながら話します。
「通常、学校などに通われている方でもちょっと心に重たいものを持っておられる方はいらっしゃいます。手帳を取るほどではないけれども、一般企業に勤めるのはちょっと難しいという方もいらっしゃるんですね。そういう方は、うちのA型もそうですけれども、痛みがわかる方なので、支援員という形で仕事をしていただいたら、マッチするのではないかと思います。一般企業に入って傷つくよりは、障害を持った人を支援する立場の仕事についた方が、生き甲斐を持ってくださる方もいらっしゃるんですよ。うちも、実際A型の利用者として来られた方が、現在社員として働いています。」
親御さんへの支援も考えたい。
最後に今は実現していないものの、将来の課題だと思っていることをお聞きすると、先にお話いただいたひきこもりの人がどこにいるのかを見つけるには、行政などの協力が不可欠と強調した上でこう付け足します。
「親御さんの協力を取り付けるのが大事で、さらに親御さんへの支援ですね。あんまり親御さんへの支援ってないんですよね。親御さんが駆け込んでくれるようなものをつくりたいというのはありますね。」
リンクスの活動に関心をもった方はぜひLコネクトまでご連絡ください。どんな内容でもお気軽にどうぞ。
取材・文/狩野哲也
取材日/2022.07.05