トップ > 他機関を知る > 20年後、絶対に今よりみんなが生きやすくなっている社会にしたい。「暮らしランプ」が考える、障害の線引きを溶かす方法とは?
  • 一般社団法人・一般財団法人

20年後、絶対に今よりみんなが生きやすくなっている社会にしたい。「暮らしランプ」が考える、障害の線引きを溶かす方法とは?

一般社団法人 暮らしランプ

阪急電車西山天王山駅から歩いて7分ほどの旧西国街道沿いに、国登録有形文化財の建物「中野家住宅」があります。


おばんざいとお酒 なかの邸

今回お話を聞く団体「一般社団法人暮らしランプ(以下、「暮らしランプ」)」は中野家住宅をリノベーションし、2019年に飲食店「おばんざいとお酒 なかの邸(以下、「なかの邸」)」を開業されました。障害のある人が就労訓練を受けられるというのがこの場所の特徴です。


暮らしランプ代表の森口誠さん。

なかの邸で暮らしランプ代表の森口誠さんにお話をお伺いしました。

自分のことを全部肯定してくれるような場所になりたい。

暮らしランプは、障害のあるなしを問わずスタッフのみんなが自分たちが暮らす町の中にほんの少し明るい、ほっとする出来事をひとつひとつ丁寧に生み出し、重ねていくことを目的として設立された団体です。

就労継続支援B型事業「こきゅう」、生活介護事業所「atelier uuu(アトリエウー)」、放課後デイサービス「あくあ」、共同生活援助事業「colle(コル)」などの運営を行っています。

「僕たちはひきこもり支援を主として行っているということではなくて、多様な障害がある方々を受け入れる現場に、ひきこもり経験をされている方々が一定数おられるという状況です」と森口さんはいいます。

「具体的な提案でご家庭を訪問した際、『私は家事を手伝っているのに、なんでひきこもりと言われなあかんのでしょうか』と言われたことがありました。自分を守るためにひきこもられた方々とかにもお会いするので、こんな言い方をすると怒られるかもしれませんが、そういった方は『よくひきこもった』と思うんですよね。その時、自分を守るためにはそれしか方法がなくて、いろんなリスクを負って、でもひきこもることで僕らのところにたどり着いたということは、何か動き出そうとしてると思うから、その時にできることが1つは事業者として雇用をするという形ですよね。」

自分を守るためにひきこもる選択をした人は、自分の経験を、同じような状況の人への支援に生かせるので、福祉の職場に向いていると森口さんは考えます。

「傷ついたり、しんどいことがあった人にケアをする際、その人にしかできないケアがあると思っています。障害があってもなくても、働く人であっても利用者であっても、自分のことを全部肯定してもらえて、『これでいいのだ』と思ってもらえる場所になりたいです。」

森口さん自身がひきこもっていた頃の経験談。

森口さん自身も半年ほど家にひきこもっていた時期があるそうです。

「心身のバランスを崩して仕事を辞めた時期、母親が枕元にトラックドライバーのアルバイトの求人票ばかり、ずっと置いてきたんですよ。『ほかにもあるでしょ』と思いましたが、仕方なく面接を受けに行って、『こんなとこで働きたくない』と言って帰ってきたら、なぜか受かったんですよ。営業の成績で1位を獲ったりもしたんですけど、その日は風邪をひいて休んだ日だったんですよね。 つまり、みんなが助けてくれようとした時の方が結果が良かったんです。なので、世の中に1か所ぐらい自分の得を求めずに、お節介を焼いてくれる人たちとか、団体があってもいいんじゃないかと思ってやっています。」

雇用を増やし、地域の健康を願いたい。

現在暮らしランプのスタッフは約60名で、100名まで増やしていきたいといいます。

「20年後、絶対今よりみんなが生きやすくなっている社会にしたいと思っています。利用者さんの登録を含めたら100何十名いて、家族を含めたら200名ぐらいの規模になります。関係者がものすごく増えているんですよね。そういう人たちがみんな寛容さを身につけていけたら、全体的に良くなると思うんですよ。細かいことに怒るんじゃなくて話し合うとか伝え合うとか、教え合うとか、方法を知れば。そう思った時に100名ぐらいの規模であれば意識を浸透させられるんじゃないかなと思っています。地域の中核団体になるのが今の目標です。」

人数を増やすことが目的ではなく、上限だと言葉を添えます。

「地域の人の健康につながることがやりたいんです。おいしいご飯を出すとか、絵を飾ることで心身の健康に寄与するとか、誰かの幸せを願う行為を福祉施設が地域に示していく。そうすると福祉が一般化される。役職のある人間がやるわけじゃなくて、例えばさきほどコーヒーを運んでくれたスタッフのホスピタリティが地域に還元されていたりとか。」

大袈裟に聞こえるかもしれないものの、今まで商店主たちが「これ食べて、元気出しや」とやってきたことと同じだと森口さんはいいます。

「先ほどのスタッフは京都市の福祉施設の利用者さんで、内職作業などをされていたんですが、聞いているとカフェや調理をしたいという方で、なかの邸ができるきっかけになったひとりです。さっき準備してもらったコーヒーの数がひとつ多かったけれど、そこがスタッフの愛嬌で『じゃあ(自分が)2杯飲むわ〜』といった会話が生まれたりする。そういう空気が『暮らしランプ』で渦巻いているんです。強い人は尊敬されるけれど、弱い人は愛されると思っています。」

なかの邸はランチの予約がずっと先まで埋まっているそうです。

「重度障害のある女の子がお出かけ先として車椅子でここまで来て、『きざみ食』を食べて帰ったんですけど、福祉の場だから抵抗なくできるんです。高齢者にも同じことができるので、人生の最後まで家族みんなで行けるご飯屋になれる可能性があるし、そういうところを目指してます。」

仕事の面白さ、楽しさを伝えたい。

実はつい最近、Lコネクトから紹介して、ある方を森口さんの運営するグループホームの夜勤の仕事の見学にお連れしました。「夜10時から朝7時までがグループホームでの仕事なんですけど、僕が隣に住んでいるから困ったことがあれば夜中でも電話してくれたら対応するから、良ければ働いてもらえたら僕も助かる」という言い方をされていたのが印象的でした。

「僕も、父親が倒れてお金がなかった時に、地元の花屋さんに日払いで雇ってもらって、ものすごく助かったんですよ。毎日現金を持ち帰らせてくれるのは精神的な安心があります。僕は元々グループホームの宿直に入ろうと思っていたし、自分にとっての助けになると思いました。経営者としてやらないといけない仕事の他に、立ち上げの時は自分が入った方がスムーズなので、スタッフの業務をすることもあって、そこで働いてくれるならうれしいわけです。夜の時間、僕が家で休むことも大事なことなので。人が少ない職種で働く人が1人でも増えたら助かる人がいっぱいいるので、そういう人をつくっていくのは僕の仕事だと思っています。この仕事のどこが楽しかったかとか、何が楽しくてやっているかを伝えていければと思ってます。」

障害があるかないかの線引きが溶けていく。

暮らしランプでは障害者として雇える人でも一般雇用をしている場合があるといいます。障害者として扱われたくない人を障害者枠として雇うのは問題だという考えからなのだとか。

「以前、国際見本市にアルバイトに行ってたんですが、搬入搬出がきつくて、ホテルに泊まる時にマッサージを呼んでいたんです。バイト代なくなるやん、という話ですが(笑)、来てくれたマッサージ師さんと話しているとやたら福祉関係に詳しくて、背景を聞くとひきこもり当事者の人だったんですよ。昼間外に出るのは怖いけれど、夜であれば人に会わないし、たぶんそれぞれのお客さんとは二度と会わないと思うと怖くないらしくて。そういう話を聞いていたら、障害がある人とない人の区別なんてない状態じゃないですか。その時に働き方は1つじゃないと思ったし、僕らが介在すると利用者さんになるけど、介在しなければ技術があるマッサージ師さんになるわけですよね。だから僕らが障害者雇用とするのは少し抵抗があって、障害がある人も一般雇用する方が整合性があるような気がします。」

調整する文化を社会に還元したい。

「福祉の現場では揉める時もありますが、人が集まるとそこに多様性が生まれ、調整を行う必要が生まれているだけで、それを調整していくスタンスは、一般企業とかにも還元できる」と森口さんは考えているそうです。

「とある企業から声をかけてもらって、大手企業の管理職のワークショップで、障害のある人と働く中で、調整することを文化として会社に持ち帰ってもらうサポートをしたんですが、こういうふうに僕らが形成してきた調整する文化を社会に還元できると思うんですよね。今までの福祉は『社会がこうだから、私たちもこうならなあかん』ということが多いわけですよ。でも福祉事業者なんで、調整して、みんなが力を合わせる文化があるわけで、 一般社会のやり方では厳しいから、みんながここに集まってるわけで、ここで調整する文化が、会社側に還元できたら、いいなと思っています。会社の中では歯車にはまりづらい人たちがいると思うんですが、そこで調整能力が生かされていくことで、みんなが生きやすくなってほしいというのが、僕らの今の考え方です。」

暮らしランプの活動に関心をもった方はぜひLコネクトまでご連絡ください。どんな内容でもお気軽にどうぞ。なかの邸でランチを予約してみるのもいいかもしれません。

取材・文/狩野哲也
取材日/2022.07.07

団体について

  • 名称

    (運営法人)
    一般社団法人 暮らしランプ
    https://kurashi-lamp.or.jp
    定休日:土・日曜・祝日
    受付時間:9:00 ~ 17:00

    ●なかの亭
    https://nakanotei.com
    定休日:月・日曜日
    営業時間:11:30〜22:00(L.O 21:00)

  • 所在地

    一般社団法人 暮らしランプ
    〒610-1106 京都府京都市西京区大枝沓掛町9-7
    阪急京都線・嵐山線「桂駅」からバス約20分

    ●なかの亭
    〒617-0844 京都府長岡京市調子1丁目6-35
    JR京都線「長岡京駅」から徒歩約20分/阪急京都線「西山天王山駅」から徒歩約10分

相談申込・お問い合わせ

相談の申込・お問い合わせはこちらから。
どんな内容でもお気軽にどうぞ。