特定非営利活動法人 ノンラベル
http://nonlabel.net
開所日:土・日曜・祝日
開所時間:10:00~12:00、13:00~17:00
- 京都府 若者等就職・定着総合応援事業 (基礎的就職支援事業)
偏りがない人はいない。「ノンラベル」が利用者さんとともにお店を回す未来とは?
今回お話を聞く「NPO法人ノンラベル(以下、ノンラベル)」は、支援者と当事者のご家族が共に活動する会として発足した団体です。本拠地は、京都市南区にある福祉サービス事業所で、主に自閉症スペクトラム(以下、ASD)をお持ちの方が通所利用できる場所となっています。当事者のご家族さんを対象とした定例会を月に一度設け、障害特性に関するレクチャーやグループワークを通じて、学びを深めていく活動を続けています。
今回訪れた場所は京都市内某所のコンビニエンスストア(以下、コンビニ)です。コンビニは撮影NGのため、記事を補足するためにフリー素材のイメージ画像を用いてご紹介します。なぜ今回コンビニを訪れたのか、副理事長の田井啓太さんと、その母親で理事長である田井みゆきさんのお話を聞きながら紐解いていきます。
本拠地とコンビニの関係性。
啓太さん:「ノンラベルの職員だった私の父と弟が退職して、コンビニを経営しています。ノンラベルが経営するとなると、ASDの特性上、就労体験とは捉えにくくなる(福祉サービス事業所へ通所する意義と混同してしまう)ことを避けるために、個人事業という形で経営しています。」
ノンラベルの利用者さんが社会参加していくため、そして対人関係を構築していくための学びの場として、コンビニで働く仕組みをつくったそうです。きっかけは、2013年に所内で今後の構想について話した時の、理事長の一言だったと啓太さんはいいます。
みゆきさんの著書「パスポートは特性理解」によれば、当初は「京都ひきこもりと不登校の家族会ノンラベル」として、2001年9月に4組の親御さんと、田井教育心理研究所として相談やカウンセリングに携わっていたみゆきさんとで立ち上げたそうです。家族支援からはじめ、家族の方が学ぶことで、家族の当事者さんへの対応に変化を促し、その後、当事者の方とつながっていったのだとか。
みゆきさん:「当事者とつながっても、決まった時間や曜日に居場所に通所するまでに数年ほどかかります。その次は就労じゃないですか。夢みたいな話ですけど、コンビニで働くことが実現したらいいなと思いました。」
どこまでの配慮が必要で、どういうところに就労できるかは人それぞれで、オーダーメイドの支援をしていく必要があります。よく知っている人が働いているところに就労研修で入り、1週間や1か月ではなく、年単位で慣れてもらうことができれば、働くための条件がおおむね整うと考えたそうです。
みゆきさん:「コンビニを実際経営してみると、大変でした。3年半ぐらいでようやく経営が安定して、少しずつ就労研修で通える人数が増えています。最初は掃除や商品を揃えるところからはじめていきます。」
啓太さん:「コンビニの業務という観点から見ると、最初は掃除や商品を揃えるところからですが、まずは就労研修場所に緊張することなく来ることが課題になる方もおられます。 勤務が始まる前に、実際に店の前まで来て帰ることで、ルートの確認をしたという人もおられます。」
コンビニに注目した理由。
コンビニに着目したのは、啓太さんと弟さんがコンビニでのアルバイト経験が長かったことが理由のひとつだといいます。啓太さんは「コンビニなら役割分担が可能なのでは」と考えていたそうです。
啓太さん:「一般のアルバイト従業員が約20人在籍していて、主に接客を担当しています。その裏側では、定期的に新しい商品が配達され、検品して陳列する必要があります。日中は、利用者さんに担当していただいており、通称「ノンラベル隊」と呼んでいます。」
原則として、ノンラベル隊の出番は日中ですが、日中以外の時間でも働けることが、コンビニに目をつけた理由のひとつなのだとか。
啓太さん:「利用者さんの中で、どうしても睡眠リズムが整わない人がおられます。完全に昼夜逆転から抜け出せない段階の中で、夜中に仕事をしてもらったことがあります。今のところ試してみたのは1回だけですが。」
働く時間を選べるのは、利用者さんやそのご家族の方にとっては光に見えたのではないでしょうか。取材当日、一般のアルバイト従業員の方と利用者さんの違いがパッと見てわからなかったと言うと、啓太さんはその理由を話してくれました。
啓太さん:「それは、パッと見てわからないところまで彼らがトレーニングを重ねて、スキルアップをしてきたからに他なりません。自分の仕事は何かを考え、業務を組み立て、規定の時間内に終わるように日々努力され、世の中に出るために必要なスキルを身に付けられた結果だと思います。」
将来実現していきたいこと。
「将来はさらにノンラベル隊の数を増やしていきたい」と啓太さんはいいます。
ノンラベル隊は原則、平日に4〜6時間勤務しているところを、例えば日中と夕方の2グループに分け、土日にも勤務することができれば、その分の時給も発生するので、利用者さんに払える賃金が増える、と考えているそうです。
啓太さん:「これらの取り組みについては、ノンラベルとコンビニで法人間契約を交わし、法的に問題のない手続きをとっています。少しずつ利用者さんの活躍の機会を増やしていければと思います。」
コンビニを運営していく中で、やってみて良かったことは、ノンラベル隊のメンバーに仕事を任せたことだと啓太さんはいいます。
啓太さん:「仕事を任せた結果、特定のカテゴリーの在庫管理や売り場をつくること、その販売の動向から発注数量を判断する、というワンサイクル全体を利用者さんがしてくれています。」
例えば記憶力や管理能力が高い利用者さんの中には、商品入れ替えなどの動きが早いカテゴリーのほぼすべての商品のパッケージ、名前、売り場の配置、在庫数量が頭に入っている方もいるそうです。
啓太さん:「利用者さんからの一言で感動したことがあります。コンビニでは、ほぼ毎週新商品が出ます。新商品を全部発注すると場所が足りずに売り場に並べられないので、選定が必要になりますが、これがなかなか難しく、テクニックが必要になります。しかし、その難しい新商品の発注業務を『一度、僕に任せてもらえませんか?』と利用者さんから言ってきてくれたことがあります。日頃、販売動向の観察と売り場づくりをしている中で自信がついてきたことの表れだと考えると、うれしかったですね。」
偏りがない人はいない。
以前はどんな仕事を啓太さんはされていたのかお尋ねすると、自動車販売店でディーラーをしていた頃のエピソードを語ってくれました。
啓太さん:「自動車ディーラーで営業をしていました。私が就職する前から、母はノンラベルの活動をはじめており、私は本職の傍ら、時折手伝いに行っていたのですが、その機会にアスペルガーの特性などを少しは知ることができました。そんな中、自動車販売店で、とあるお客様の対応に他の営業スタッフが苦労する中、私が特性をふまえた会話をしていくと、とてもスムーズにコミュニケーションを取ることができ、お客様にもご満足いただくことができました。」
転職を考える機会が訪れた時、啓太さんはこのスキルを活かしたいと考え、ノンラベルで働くことを決めたといいます。
啓太さん:「ノンラベルで働きはじめた頃は、自分の中で当たり前と考えていることが他者にとっては当たり前ではないという「当たり前」に直面したことが辛かったです。自分も偏りがある変わっている人間だと思います。私自身、まだ経験が浅く、未熟ですが、この世の中で偏りがない人間はいないと考えています。どれだけそれに気づけるかが、支援を行うためには大事だと考え、今、ノンラベルで働いています。」
ノンラベルの活動に関心をもった方はぜひLコネクトまでご連絡ください。どんな内容でもお気軽にどうぞ。
取材・文/狩野哲也
取材日/2022.07.07