特定非営利活動法人 フラワー・サイコロジー協会
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- 京都府 若者等就職・定着総合応援事業 (基礎的就職支援事業)
花を通じて誰もが居心地の良い場所をつくる。NPO法人フラワー・サイコロジー協会が支援の中で大事にしている表現方法とは?
地下鉄西大路御池駅を西に歩いて10分。マンションの一室にNPO法人フラワー・サイコロジー協会があります。
フラワー・サイコロジーは花と人、花と社会、花によるソーシャルイノベーションの可能性について学術的な研究を行い、その成果を福祉、医療の臨床の場、教育、まちづくりの場で実践応用していく活動を行っています。
NPO法人フラワー・サイコロジー協会のひきこもり支援について、代表で所長の浜崎英子さんにお話を伺いました。
写真中央が浜崎英子さん、右が坂口淳子さん
まず京都府の補助事業で行われている若者等就職困難者の支援についてですが、この一室で社会人としてのコミュニケーション訓練やビジネスマナー、あいさつ、身だしなみ、礼儀作法をはじめとする社会人としての常識を身につけるところからはじまります。パソコン実習もありますが、一番気になるのは「いけばな療法士、花関連事業につながるスキル習得、いけばなを認知症ケアとして有効に活用する方法を学び、高齢者施設等で実践の補助をする」ことです。なぜ「いけばな」なのでしょうか?
「花を使ってコミュニケーション技術をわかりやすく学んでもらうプログラムを開発したんです。例えばこれは枯れた花ですが、このまま渡されると枯れた花だという認識だと思いますが、吊り下げてみせると美しく見えますね。人との関わりにおいてもそうだよね、という話などをしながら勉強していただくようにしています。」
講座は就職困難者だけを対象としているのではなく、一般の方がいけばな療法を学ぶ講座の中にまじって受講してもらうことで、「私は支援が必要で特別だから」という感覚を本人が感じないような配慮をしているといいます。
オンラインでの講座も対応しています
「中には個別にケアしないといけない人もいるので、そういう方は1対1のカウンセリングからはじめる場合もあります。オンラインや対面など、カウンセリング方法は臨機応変に対応しています。」
ひきこもり支援のきっかけは役所での活動から
「いけばな療法」のプログラムを少し解説しますと、心理カウンセリングに花を活用したもので、アートセラピーとの組み合わせや親子での取り組みなど、ひとりひとりに合ったプログラムが実施されています。ポイントは、とらわれてしまいやすい考えや行動をみつめ直すこと。言葉に表すことが難しい状況の方にも効果的で、ストレス解消にも役立つのだとか。
NPO法人フラワー・サイコロジー協会の活動はひきこもり支援が主な目的ではじまったわけではなく、「いけばな療法」の活動を続けていく中でひきこもり支援のニーズが生まれた背景があるそうです。
「区役所のまちづくり会議に参加した際に『まちづくりの拠点スペースをつくるので、にぎやかにできませんか?』という話がありまして、『私のできることでしたら』とそこに花を飾らせてもらったのがきっかけなんです。同じ場所で福祉施設の人たちがお菓子などを販売されていたんですが、週に1回お花を飾りに行っていたので、毎週顔を合わせるようになったAさんと仲良くなり、『花を飾る作業を手伝いたい』というので手伝ってもらうようになりました。」
そこから障害のある方が浜崎さんの花を飾る活動を手伝うようになり、その情報が福祉の現場に少しずつ広がっていったといいます。
こども食堂で広がり続けるコミュニティ
また、もうひとつの入口は法人内の一室ではじめた「こども食堂」の活動が大きいといいます。
「京都府から『やってみませんか』と声をかけてもらったのですが、大量にご飯をつくってそれを食べてもらうだけの食堂ではなく、ひきこもりとか不登校とか、家庭内に困りごとを抱えていらっしゃる方が一緒に調理を手伝い、テーブルに花を飾り、食文化を楽しみながら参加できる、認知症の人も含めた、多世代交流型の場所をつくるようにしました。私たちは『こども食堂』とは呼ばず、『えがおになるキッチン』と呼んでいて、どのような人でも参加できます。」
えがおになるキッチンの様子
行政的な言葉で言えば「ひきこもり支援」になる部分を、浜崎さんの活動の中ではなるべくそう言わないような配慮をされていますが、その理由は最後に紹介します。「えがおになるキッチン」の活動は、コロナ禍の影響で対面での活動が難しくなったので、オンラインで不登校の方や認知症の方たちに料理のメニューを考えてもらうようにしたといいます。
「考えてもらったメニューで料理をつくって、自宅に届けるようにしています。自分の考えたメニューが自宅に届くことで、顔が見られなくても私たちとつながりを持つことができ、信頼関係が育まれていくことを実感しています。また、家族でそのお料理を食べてもらえるので、家族内に私たちの思いが共有されて、それぞれがより良い成長に向けて進んでいくことができます。当事者の方も自分が考えたメニューが様々な人に届けられ、家族にも喜ばれて、社会や家庭内で役割が持てた実感を抱けていると思います。実際に、社会参加しづらい状況だった人が、現在は学校に通えるようになったり、就職できたりしました。」
社会参加の入口のひとつ「いけばな街道」
ひきこもりや不登校の人が社会参加できる入口として、「いけばな街道」という活動をされているといいます。
嵯峨鳥居本でのいけばな街道2019年
「施設の中で花を飾っていても、見てくれるのは周辺の人だけ。もっと多くの人に見てもらうにはどうしたら良いか」という思いがあったと浜崎さんは振り返ります。
「『いけばな街道』は、おもいやりをつなぐ花『スターチス』を使った、誰もが参加できるやさしい社会を⽬指す活動です。認知症の⼈のいけばな作品を京都市の著名な観光地嵯峨鳥居本で展⽰することから始まりました。現在はどんな状態であっても、花やいけばなで社会参加できることから、さまざまな⼈々が自分にあったスタイルで社会で役割を持つ機会となるイベントとして広がり、全国で展開しています。」
いけばな街道の展示作業
最初のきっかけは通信制高校の学生たちがひきこもりや不登校の学生たちと嵯峨鳥居本地域の愛宕古道街道灯しの活動を手伝ったこと。地域は高齢化していて、お祭りの担い手が少なくなっていたからだそうです。
嵯峨鳥居本での活動風景
「嵯峨鳥居本のまちづくりに携わるようになり、お花を飾らせてもらえるようになりました。社会参加しづらい状況の人で本人が参加できなくても、作品が社会参加できるんですね。作品といっても、会場全体、街並み全体が一つの作品になるので、そのパーツを自分が作るわけです。そうすると、どんな風に展示されたのか見に行きたくなったりして外出の機会にもなります。また、『来年もっとがんばるわ』という声が出てきたりするので、うれしいです。参加の仕方は作品づくり、写真撮影、会場の展示手伝いなど様々な段階を設けています。イベントに自分が参加するってワクワクするじゃないですか。そういう機会を、花を活用してつくっていきたいです。」
いけばな街道2022年の展示風景
浜崎さんのお話を聞くと、いろんな参加方法を工夫されているのが伝わってきます。
ペットボトルスターチスの様子
例えばペットボトルを潰してその中にドライフラワーを入れ、それを自然光や、ライトで照らすときれいに見えます。その場に参加するのはハードルが高い人も、参加のグラデーションをつくることで、段階を踏んで関われる仕組みが用意されているようです。
ひきこもり支援と表記しない理由
パワフルな活動を続ける浜崎さんの原動力はどこから来るのかをお聞きする中で、なぜひきこもり支援と表記しないのか、その背景がわかりました。
2021年に参加してくださった方たちのペットボトルスターチスの作品
「大きなきっかけは私自身が離婚を経験していて、ひとり親になったんですが、子どもたちがふたりとも学校に行きづらくなったのです。でもひきこもり支援とか不登校支援と記載されているところには子どもたちは行きたがらないんです。『なぜそんなところに行かなきゃいけないんだ!』と暴れることもあり、親子の信頼関係が崩れるわけです。でもお花の仕事はしなくてはいけなくて、『花がいっぱいでひとりで持っていけないから手伝ってくれない?』というと『わかった』と言ってついてきてくれて、子どもの外出のきっかけになるんですよ。この場所のように、いろんな部屋があって、お母さんがいけばなの活動をしている間に子どもたちが遊べる場をつくったんですが、そういう仕組みを今困っている人たちのためにつくれないかなと思ったんです。」
花に目が行きがちですが、花を通じて誰もが居心地のよい場所をつくっておられるのだと感じました。
NPO法人フラワー・サイコロジー協会に関心をもった方はぜひLコネクトまでご連絡ください。どんな内容でもお気軽にどうぞ。
取材・文/狩野哲也
取材日/2022.06.29