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  • 京都府 若者等就職・定着総合応援事業 (基礎的就職支援事業)

ひきこもらせない。龍谷大学内の「cafe樹林」が取り組む、誰もが挑戦できる環境づくりとは?

社会福祉法人 向陵会

京阪電車龍谷大前深草駅から歩いて5分の龍谷大学深草キャンパス内に障害者就労継続支援B型事業所の「cafe樹林」があります。

「cafe樹林」は社会福祉法人向陵会(以下、「向陵会」)が運営する施設です。2006年4月に営業を開始しました。

それ以前の2002年、龍谷大学が障害のある人も同世代の障害のない学生と交流できるオープンカレッジ「ふれあい大学」を開設し、その流れを汲んでcafe樹林が生まれ、向陵会が委託を受けたのがきっかけなのだそうです。


左が井上大さん、右が河波明子さん。

向陵会の井上大さんと、cafe樹林責任者の河波明子さんにお伺いしました。

河波さん「私がcafe樹林をお預かりしたのは2013年からです。当時はほぼ収益のあがらない場所でした。大学内に売店もありますし、障害者のメンバーはそれぞれ馴染めていなくて裏で喧嘩もしてますし、働くことに対する意欲が全く見られない中で、私自身もお預かりした時はどうしようかと思っていました。」

転機は5人の大学生。

河波さんは状況を改善していくために、大学生にお手伝いしてほしいと呼びかけたそうです。すると経済学部の学生5人が訪ねてきたのだとか。

河波さん「最初はゼミの延長でリサーチのために来られたんですが、実情を知って『手伝います』と言ってくれたんです。それが転機になりました。」

5人の大学生が集まり、朝8時から来て障害のあるメンバーたちと食事をともにし、世話をしてくれたといいます。口コミや、SNSを立ち上げて発信したことで、他の学生たちもcafe樹林の存在を知り、出入りするようになったそうです。

河波さん「その頃、学内に配布されている冊子の中の、龍谷大学の町家キャンパスで野菜を売っているという記事が目に飛び込んできて、『この野菜を販売している学生たちに会いたい』とメンバーに話したら、そのグループに声をかけてくれて、お店に来てくれたことがきっかけで、3年間、大学に来られていない学生と知り合ったんです。」

ひきこもり状態の学生とつながった。

河波さん「『2年間休学している』とか、『ゼミから落ちこぼれた』とか、そういった仲間をここに集めてきたんですよ。人が人を呼んで43名集まってきたんです。こんな優秀な人たちが苦しんでいたんだと思って、本当にびっくりしました。」

親がリストラや倒産に遭い、ご飯を食べていないなどの情報が「cafe樹林」に集まってくるようになったといいます。

河波さん「それで朝におにぎりを提供するようにしたんですね。」

井上さん「大学にさえなかなか出て来られない人はいるんですよ。彼らが傷つく前にフォローしてあげて、次の段階を踏む事業なんです。完全にひきこもってしまった方が、ここを訪ねてくることはやっぱり少なくて、予備軍のような人たちを、もう1回立て直してあげる事業に取り組んでいます。」

井上さんは未来を見据えて語ります。

井上さん「ひきこもらせない方法を考えていかないと。ひきこもってしまったら、社会に出していくには労力や体力も使うし、彼らが社会に出る準備も大変な部分があるから予防的な部分をやれることは意義があると思って、取り組んでいます。」

これらの活動を事業化するためにWAM助成(通常助成事業)をで2年間補助していただき、2017年から龍谷大学チーム・ノーマライゼーションと向陵会とで始めた就労移行支援プログラムが「トリムタブ・カレッジ」です。

就労移行支援プログラム「トリムタブ・カレッジ」。

「トリムタブ・カレッジ」は大きくわけて座学と実践があります。実践は「飲食」と「靴磨き」などがあり、飲食では接客、調理、雑用まで幅広く行われます。

河波さん「靴磨きはトリムタブカレッジを共に運営してくれた学生たち5人が卒業する前日に立ち上げて、事業化しました。その後、知的障害のメンバーと発達障害のメンバーがそこに就職しています。」

靴磨きの会社名は「革靴をはいた猫」。cafe樹林で就労支援を受ける人の多くは、「革靴をはいた猫」のウェブサイトを経由して来られる方がほとんどだといいます。

また、これらの活動を知った大阪の大手企業で障害者雇用を担当する方から誘いがあり、2名ほどが就職しているそうです。

河波さん「貿易商社なのですが、知的障害の人たちは、障害者就労でも雇ったことがなかったそうなんですよね。東京本社は難色を示したのか、面談にも同行してほしいということで、彼らがどれぐらい仕事ができるのかきちっとお話させていただき、仕事の現場も見ていただいて就職することができました。」

お弁当づくりの一日。

飲食の実践は単純作業を反復するのではなく、フードをつくったり、ポテトを揚げたり、ドリンクを入れたり、レジを閉めたりとさまざまな業務を学びます。

河波さん「朝8時半にはみんな出勤します。お弁当づくりはだいたい10時ぐらいまでに全部終えます。1日に60〜70食ぐらいつくっています。『配達してみたい』という就労支援の利用者の声もあり、学校内ではデリバリーもしています。」

井上さん「売上を上げ、工賃を上げることも課題ではあるので、お弁当の配達先も開拓中です。」


朝の発声練習の様子。

グレーゾーンでも活動できる環境を整えればうまくいく。

河波さん「グレーゾーンの人がかなりいるんですね。手帳は持ってないんだけど、社会には適応できないという方はかなりいらっしゃいますよね。でも私は大学生の時に適切なケアをきちっと届けられたらと思っています。能力を持ってるわけですから、こちらが活動できる環境さえ整えたらうまくいくと思っています。」

河波さんは続けます。

河波さん「みんないいものを持っていると思うんですよ。そのいいところをどういうふうに演出してあげられるかというのを常々考えています。1人1人、何人いても1対1なんですよ。全体がこれをやればいいということじゃなくて、この人は「これやれば」っていうのが絶対あるんですね。」

障害者手帳をもっている大学生との経験談を語ってくれました。

河波さん「大学に来ても『手帳を持っていることを知られたらどうしよう?』だとか、 強迫観念が身についている学生がいて、『ここでバイトをやりたいです』という話があったんですが、その時、この子は無理だなと思いました。入ってもらったら、数分で後ろのソファに寝転んじゃったんですね。大学に来ても友だちができず、授業だけ出て帰っていたんです。樹林に関わりのある学生に『サポートしてほしい』とお願いしたんですがうまくいかず、複数の学生に頼んでもダメだったんですが、ある時、私が『ボードゲームをつくらない?』って言ったら今までぜんぜんしゃべらなかったその子が興味を持って、大阪でボードゲームをつくっている会社の方と会って話をしてもらうと『面白い』となって、彼がつくりだしたんですね。こんなふうに、ひとりひとりの良いところをひきだしていけたら、少しずつ状況が変わっていくのではないかと思っています。」

「cafe樹林」の活動に関心をもった方はぜひLコネクトまでご連絡ください。どんな内容でもお気軽にどうぞ。キャンパスへは大学生以外も入れるのでcafe樹林でお茶してみるのもいいかもしれません。

取材・文/狩野哲也
取材日/2022.07.07

団体について

  • 名称(URL)

    社会福祉法人 向陵会
    龍谷大学深草キャンパス内 カフェ樹林
    https://www.cafe-jurin.com/
     定休日:土曜・日曜・祝日
     開所時間:10時~14時

  • 所在地

    〒612-8577 京都市伏見区深草塚本町67 龍谷大学深草学舎内

    京阪本線「龍谷大前深草駅」から徒歩約5分/JR奈良線「稲荷駅」から徒歩約10分/地下鉄烏丸線「くいな橋駅」から徒歩約15分

  • 京都府事業

    若者等就職・定着総合応援事業 (基礎的就職支援事業)

  • 運営法人

    社会福祉法人 向陵会 乙訓ひまわり園(法人HP)
    https://himawarien.net/hataraku/#hataraku_3

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